CETAに調印。どうにか合意できたベルギーと利益が受けられないイギリス

トルドー首相とEU首脳
                                    https://youtu.be/1DJ9-kNFoHw

7年越しのFTA調印。一時は水泡の危機も



10月31日にEU(欧州連合)とカナダは自由貿易協定(FTA)に署名し、関税の99%が撤廃されることになりました。予定よりも3日遅れての調印は7年の交渉を経てようやく成立し、カナダのジャスティン・トルドー首相は「素晴らしいこの協定を前進させていく」と両経済圏の発展に意欲を見せました。







ブリュッセルで署名された「EUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)」は関税の撤廃によりEU域内の工業品・農産品輸出業者は毎年最大で5億ユーロ(約575億円)のコスト削減効果があると欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長はコメントしています。



EUが包括的な貿易協定を先進国との間に締結したのはこれが初めてのケースとなります。



しかし、本来ならば28日にこの調印式を迎えているはずだったCETAですが、どうして遅延という事態が起きたのでしょうか。



ベルギーのワロン地域政府の反対



直前になって合意がとん挫しそうになったのには、ベルギーの地方政府であるワロンがCETAについて反対する意向を表明したためでした。


ベルギーの政治形態は中央政府を中心にして、3つの地域政府と3つの言語共同体からなっています。


連邦国家であるために、今回のような国全体としてEUの調印に賛否を示す際にもそれぞれの地域政府が意見の一致を見なければなりません。そしてEUとカナダのCETA成立にも加盟国28ヵ国すべての国の合意がなくてはなりません。


ワロン地域は条項の内容の中で投資家との紛争が発生した場合の処理について不安があることからCETAへの調印に反対していました。また、同地域での主要産業が低迷していることから先進国との自由貿易に後ろ向きなのだとも考えられます。


EUはカナダが先進7ヵ国の中で初めて合意に達することになりますが、28ヵ国の地域にはこれからアメリカや日本などとの経済大国とのFTAも進められていくことにワロン地域と同じ不安を抱いている人たちも少なくありません。



EUのトゥスク大統領は24日までにワロン地域の賛同が得られるようベルギーに通達します。ミシェル首相は地位政府代表との会合を開いたものの首都ブリュッセルや社会主義勢力の強い地域ではワロン地域を支持する姿勢は崩れませんでした。



ワロン地域政府のマニュット首相は打診している協定の修正内容にカナダは応じているため、EU側との問題で「イエスと言うわけにはいかない」とコメントしています。




ベルギーのCETA合意


事態が進展したのは27日のことでした。地域政府首脳たちが不安視される農家や政府の権利について対応した補足条項の提案をし、ミシェル首相がこれを受けたことで両者の合意が成立しました。


カナダとEUもこれに応じたためCETAの調印が現実のものとなったのでした。



調印を喜ぶミシェル首相のツイート:「ベルギーはCETAに合意。すべての議会が明日深夜までには合意できる状況になった。EUとカナダにとって大きな一歩だ」



これから欧州議会の批准がされたあと、2017年初めから暫定的に協定が履行されることになります。CETAの発行によってカナダの貿易額は20%増加する見通しとなっています。カナダ経済は90億ドル、EUは130億ドルの効果が得られると見られています。



「この協定が中間層の人たちにとっても良い結果を示してくれるだろうと自信を持っている。カナダ経済に好影響を与えたことを感じてくれるだろうし、世界的に見ても選択が間違っていなかったとわかってもらえると思う」とトルドー首相は語っています。




ユンカー委員長のツイート



アメリカとの環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)やその他G7とのFTA交渉もこれで先に進めることになりましたが、6月に国民投票によってEU離脱を決めたイギリス(Brexit、ブレグジット)もEUから抜けたあとには独自の貿易協定を結ばねばなりません。




イギリスとCETA


EU各国とカナダ、そしてこれからTTIPやFTA交渉を行う国々がほっと胸をなで下ろしている一方、複雑な立場にいるのがイギリスです。





「今日の調印とブレグジットの問題とは何の関係もないものだと私は考えている」






ユンカー委員長はトルドー首相、トゥスクEU大統領との調印式を前にしてこうコメントしてます。批准すべきEUに加盟している28ヵ国の中には、離脱が決定しているイギリスも含まれているのです。





イギリスの国際貿易担当相のリアム・フォックス氏はテリーザ・メイ首相に対し、イギリスがEUに残留していた場合、CETAによって年間130億ポンドの利益があったであろうと説明しています。EU離脱を推進する立場にあったフォックス大臣は逃すことになった巨額の利益についてメイ首相に謝罪しています。




関連記事:イギリスがEU離脱について発表した単一市場からの撤退が意味するものとは?




フォックス氏はイギリス議会は批准に反対する選択肢もあると示唆しています。また、ワロン地域の反対のように、イギリスが貿易協定をEUと結ぶ際にも似たような問題が持ち上がる可能性があるとしています。





ブレグジットに反対していたアリスター・ダーリング元財務相は国民投票前のキャンペーン中に、EU離脱後にEU加盟国を始め諸外国との自由貿易協定確立にかかる年月を試算し公表していました。





それによると平均で6年かかるとされています。そして、EUから離脱してしまったために、生じる貿易の損失は2500億ポンドに上るだろうと見積もっています。確かに今回のCETAだけでも130億ポンドの損失が出ており、これからEUがTTIPの交渉をまとめたとしてもそれを享受することはできません。





Click! EU関連ニュース







https://www.theguardian.com/business/2016/oct/30/eu-canada-sign-ceta-free-trade-deal-trudeau-juncker
http://www.afpbb.com/articles/-/3106229
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-10-31/OFVZ5N6K50Y001
http://jp.wsj.com/articles/SB10200540860194693704004582406882229959706
http://www.sankei.com/world/news/161029/wor1610290046-n1.html
http://jp.reuters.com/article/eu-canada-trade-idJPL4N1CU4G7
http://diamond.jp/articles/-/106349



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