アメリカ医療保険制度の仕組み


転機を迎えるアメリカ医療保険の将来



車いすに乗る人 医療保険制度




2016年11月のアメリカ大統領選挙に共和党候補のドナルド・トランプ氏が勝利し、2017年は民主党政権だったバラク・オバマ大統領の政策から大きな転換が図られます。3200万人が無保険状態になるかもしれないという予測もあり、アメリカ国民の強い関心を集めています。












その中でも注目されているのがオバマケアの名で知られている医療保険制度の見直しです。オバマ大統領の肝いりで進められてきたPatient Protection and Affordable Care Act(患者保護並びに医療費負担適正化法。ACAと略されることが多い)は当初から共和党から強い反発があり、トランプ氏も選挙キャンペーン中に廃止を公約に掲げていました。


そもそもオバマケアとは?



~アメリカの国民皆保険制度導入~



バラク・オバマ 演説

基本的にはアメリカ国民すべてがなんらかの公的な医療保険制度に加入する「国民皆保険制度」への意向を目指したものでした。



日本も国民皆保険制度を導入していますが、先進国の中ではアメリカだけが個人の自由意思で公的な医療保険への加入を決めてよいとしていました。




それを何らかの保険に強制加入させるシステムに変更したのがオバマケアです。2010年時点で保険に加入しているアメリカ国民の割合は84%だったのに対し、オバマケアが完全施行された2014年から1年後には90.9%にまで増加しています。およそ2000万人が1年で加入したことになります。


このACAの一番の目的は、貧困層の人たちが保険に加入していないために高額な医療費が払えずに破産してしまったり、病院に行けなかったりしている状況を改善することにありました。







~アメリカの医療保険制度~


アメリカの医療保険は


  1. メディケア
  2. メディケイド
  3. 民間医療保険


からなり、メディケアとメディケイドが国が運営する制度です。



アメリカでは医療保険は公的なものと民間のものがあり、民間の医療保険は年間1兆5000億ドルに達する巨大な市場に成長しています。さきほどの2010年時点での医療保険加入者の割合は、公的あるいは民間のどちらかの保険に入っている人を合わせた数になります。





ただ、低所得者層の人たちにとっては民間の保険料は高額で支払える金額ではなく、また、それまでの公的医療保険の制度にも条件が満たされず制度から漏れている場合も少なくありませんでした。




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~メディケアとメディケイド~

メディケアとメディケイドは1965年に導入された制度で、高齢者や低所得者を対象にした公的医療保険です。この制度によってそれまで25%近かった無保険者が15%にまで減少しています。


・メディケア
メディケアの対象となるのは以下の人たちになります。


  1. 65歳以上でアメリカ市民権あるいは永住権を取得し5年以上居住している人
  2. 身体障害者
  3. 透析患者
  4. 末期の腎臓病またはLou Gehrig病(筋萎縮性側裂索硬化症)の人


入院費や外来医療費、処方薬費が補助されます。ケースによっては民間の保険会社が代行します。全体の運営は連邦政府が行っています。



・メディケイド
オバマケアが始まるまでは、メディケアは低所得者を対象にしていたものです。メディケイドはメディケアと違い、連邦政府と各州政府が財源を拠出して運営しているため、洲によって加入できる要件が異なっていました。


低所得というだけではメディケイドの制度が適用されることはなく、特に妊婦や子供、65歳以下の障害者などが利用できるシステムでした。所得の条件だけで加入するには連邦貧困水準50%以下であることが多かったのです。






~ACAによるオバマケアの改革~



ACA  オバマケア
ACAのロゴ

ACAのもっとも目玉となるのはメディケアの対象となる人を拡大でした。


それまでメディケアは妊娠中の女性や子供が家族にいるなどの要件がなければ加入が難しい、つまり貧困でも独身の人は制度がカバーできませんでした。



それをオバマケアでは連邦貧困水準133%以下の人はすべての州でメディケアの対象としたのです。独身で年収約1万6000ドル、家族4人で約3万3000ドル以下の収入の人なら誰でも入れるようにしたのです。



また、メディケイドの対象となるほど低所得ではない人にも民間の医療保険に入る際に補助金を出すという内容も盛り込まれており、それによって全体の無保険者の数を減少させるという目的を実現させたのでした。



オバマケアは国民皆保険制度を目指したものでしたが、なによりも貧困者・低所得者の医療環境の改善が主眼であったことがわかります。


ACA施行前にアメリカの医療財政はすでにひっ迫していましたが、加入者が増えることでさらに財源が必要になります。オバマ大統領は財源の確保のために、健康な富裕層の医療保険強制加入と増税、医療機関への報酬減額、医療保険業界の利益率の上限設定などを行っています。




医学書院/週刊医学界新聞(第3195号 2016年10月17日)







なぜ廃止の動きがあるのか。問題点は何か





このように、無保険者の数を減らし低所得者が医療行為を受けられるようにするための政策でしたが、それにともなって国民全体の負担が増加(年間およそ7.5%)していて、特に富裕層にとっては負担だけが増えていて、メディケア税は0.9%引き上げられています。


~オバマケアの廃止法案可決~

ACAの成立から反対していた共和党は、法律の成立後も一貫してこの制度の撤廃する動きを続けます。


2016年1月6日、アメリカ議会の下院はすでに2015年12月に上院で通過していた、ACAの廃止法案を可決させます。それまでに共和党が多数の下院では89回通過してきたものの、民主党が多数であった上院での審議が見送られてきました。


しかし、2014年の中間選挙によって上院、下院ともに共和党が過半数を占める結果となり両院での廃止法案が可決されたのでした。


オバマ大統領は拒否権を発動し、廃止法案の成立を阻んだもののアメリカ国民全体としてはあまりオバマケアを支持していない事実が浮き彫りになった瞬間でした。実際にこのときの世論調査では賛成が41%であるのに対し反対が53%、修正が必要と答えた人が53%で廃止すべきだと答えた人が35%となっています。




~エクスチェンジの保険料25%UP報道~


当初、多くの人が予想だにしなかった共和党候補ドナルド・トランプ氏が当選したのには、民主党候補のヒラリー・クリントン氏のメール問題や白人労働者の不満、海外のISによるテロへの不安、ロシアのハッキングなどいろいろな要因が挙げられていますが、オバマケアもトランプ氏に吹いた追い風の一部であったかもしれません。


オバマケアの一環として、政府は民間の医療保険が購入できるインターネット上を公開し、その中で保険会社が提案する価格や補償内容を比較して個人や企業が保険を選べるようにした「エクスチェンジ(マーケットプレイス)」というシステムを開始しました。


選挙キャンペーンもクライマックスを迎えつつあった10月に、そのエクスチェンジが2017年度に平均25%保険料が値上がりするというニュースが一斉に報じられました。



ハロウィンに合わせた共産党議員のツイート。「お化けや怪物より怖いものってなんだ?実態のよくわからない25%アップするオバマケアのプレミアムさ!」


実際にはそこに政府の補助金が出るため、国民が支払う保険料はそれほど以前と変わらないのですが、25%という数字の大きさだけが先行し、さらには全部の保険料が25%上がるような印象も広がりオバマケアへの不満はさらに高まったのでした。



しかし、オバマケア実施後から少しずつ保険料が値上がりしているのもまた事実です。


オバマケアがなくなった場合、どのような影響があるのか

大統領の交代とともに与党も交代する2017年が始まるが否や、1月3日の初日に連邦議会の上院であらためてACAの廃止案計画の日程表が提示されました。



これまでは両院で過半数は占めているものの、大統領の拒否権を覆すために必要な3分の2には達していなかったためオバマケアの廃止は実現されませんでしたが、共和党のトランプ氏の大統領就任でその壁が消えることになります。



しかし、共和党の上院の議席数は51で過半数は越えているものの、民主党によるフィリバスター(議事妨害)を防ぐにはやはり3分の2の議席が必要となります。つまりACAそのもののを廃止することは難しいのです



そこで、共和党は法案そのものを葬るのではなく、過半数で可決可能な予算決議でオバマケアに拠出される財源の調整を行う方法を取っています。これまで連邦政府が出してきた医療保険に対する補助金をカットするのです。



それによって補助金を出して統制していたエクスチェンジで提供される医療保険の価格が上昇し、そこで加入しようとする人の数が自然と減少していくことになります。また、拡大したメディケイドの対象も財源調整によって範囲が狭められる可能性があります。



3200万人近い人が再び無保険の状態になってしまうのではないかとも考えられますが、そうなると大きな混乱は免れません。3日にトランプ次期大統領の顧問を務めるケリーアン・コンウェイ氏は次のようにコメントしています。



「今、保険に加入している人がそれを失うようなことは誰一人としてあってはならないと思っています」



トランプ政権ではオバマケアに代わる医療保険制度を構築し、結果として無保険者を増やさないようにする方針であるということです。ただ、1月時点では共和党内に代替となる具体的な案は用意できておらず、コンウェイ氏は「人によっては、ある専門家などは制度の以降に数年はかかると言っています」と付け加えています。




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<追記>
1/21
1月14日に下院でオバマケアの撤廃に向けた予算案が通過しました。共和党はオバマケアの代替案を策定中ですが、それとは別に1月20日に大統領に就任したドナルド・トランプ氏も独自の代替案を作成しており、完成は間近だと説明しています。


また、就任直後にオバマケア撤廃に向けた大統領令へサインしています。




3/25
トランプ大統領は24日に下院本会議で採決される予定だった、共和党指導部が作成したオバマケアの代替案を直前で取り下げました。民主党だけでなく共和党保守派からの反発も強く、可決の見通しが立たないためでした。


医療保障制度改革については今後も取り組んでいく意向をトランプ大統領は表明しています。



5/4

トランプ政権は3月25日に最初の改正案を撤回せざるを得なかった結果を受けて、修正した改廃法案を提出。下院で通過するには216以上の賛成が必要な中、217対213というぎりぎりながらも賛成が上回りました。

もし、上院が改廃法案の修正を行った場合、ふたたび下院での承認が必要となります。




6/26

米議会予算局(CBO)は上院共和党のオバマケア代替案が施行された場合、無保険者が2200万人出るという試算を発表しました。これを受けて共和党内でも反対する議員が出てきました。


6/28

共和党は独立記念日による7/4日の議会の休会を前に、上院でのオバマケア代替案の採決を目指していましたが、賛成票50を確保できるか不透明な状況であることから採決の延期を決定しました。



7/25

メディケイドの大幅縮小案を盛り込んだ代替法案が上院の本会議で採決されましたが、賛成43人、反対57人で否決されました。9人の共和党議員が反対に回っています。


7/27

オバマケア代替案をいったん棚上げし、2年後までに案を検討するという内容の廃止法案が上院に提出されましたが、賛成45人反対55人で、2度目の否決という結果になりました。













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参照

https://healthpolicyhealthecon.com/2016/11/10/trump-and-obamacare/
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03195_01
http://www.kenkouhokenusa.com/medicare.html
http://ushealthinsurance4jpn.com/2016/02/01/what-is-medicaid/
http://www.sankei.com/premium/news/160123/prm1601230020-n1.html
http://blogs.wsj.com/briefly/2017/01/03/5-things-things-to-know-about-the-affordable-care-act/
http://www.cnbc.com/2017/01/03/trump-adviser-conway-says-no-one-will-lose-health-coverage-after-obamacare-repeal.html
http://jp.wsj.com/articles/SB10175227258939934692904582538372638661552

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