感情のしこりは残っているものの、ビザ免除に向けて
加盟を先に見据えたシェンゲン圏におけるビザ免除を求めるトルコと、移民対策に同国の協力が欠かせないEUはクーデター未遂事件後の処置を巡って深い溝ができていましたが、両者は9月にもEUの委員会がトルコについての報告書をまとめ、止まっていた協議が再開する見通しとなっています。
関係悪化を招いたクーデター未遂後
トルコで7月に発生し、失敗に終わったクーデター後、レジェイップ・タイイップ・エルドアン大統領は事件に関わった疑いのある人物を徹底的に追求して1万8000人におよぶ人を逮捕もしくは拘留し、刑務所に収容しきれずに一時釈放するほどとなっていました。
もともと独裁色を強めていたエルドアン政権はこれを機に自らを支持する人たちの結集し、反対派の一掃に力を注いでいますが、その中で死刑制度の復活も示唆しています。
民主主義が失われていっていることやイスラム圏であることなどからEU加盟について、ヨーロッパ諸国はあまり積極的な姿勢を示してきませんでしたが、加盟の条件である死刑制度の復活をエルドアン大統領が言葉にしてからさらに緊張関係が高まっていました。
クーデター未遂後に数千人のトルコ系移民が自国でエルドアン大統領支持のデモを行い、クルド人の商店を襲撃する事件が起きたオーストラリアでは、ケルン首相が8月3日にEUはトルコの加盟交渉を打ち切るべきだという提案を出しています。
オーストリアは入国管理を厳しくするなど、移民政策について強硬な立場を取っている国ですが、以前からバルカンルート封鎖の難民政策の合意を盾にシェンゲン圏の移動自由を求めていたトルコはビザなし渡航の10月実現を迫っています。しかし、ドイツも基準が満たされていないとして困難であるという声明を発表しています。
交渉のチャンネルをぎりぎり残していた状態でしたが、EU関係者のトルコ訪問を行い実情を確認する可能性を含めてこれからふたたび議論が交わされることになりました。
難民問題によって主導権を握るトルコ
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、ギリシャより北や西への国境を超えることができなくなり、同国では5万人の難民が不衛生な環境下で足止めを受けていると警鐘を鳴らしています。しかし、トルコとの合意によって以前の混乱が収まったEU諸国としては元に戻すことは難しいでしょう。
Desperate and depressed, #Syrian refugees in #Greece regret leaving home https://t.co/1wD0FNACoz #hsrfcas pic.twitter.com/ziIraGLqsC— Health SystemsGlobal (@H_S_Global) 2016年8月6日
特にこの数ヶ月でもヨーロッパの中でISなどイスラム過激派が関与していると思われるテロ事件が多発していて、国内でのイスラムフォビア(イスラム恐怖症)の空気が濃くなっています。フランスは海岸での「ブルキニ」着用の禁止やイスラム教徒への制限を大きくするべきだというサルコジ元大統領が大統領選に立候補しています。もし、シリア難民がまた多く流入すれば前よりも大きな混乱が起きるのは避けられません。
EUにとっては難民合意、トルコにとってはビザなしの渡航が確保したい権利となっていますが、クーデター未遂前後で大きく状況が変わってしまったために、EUからトルコへの難民対策支援費30億ユーロと、トルコの反テロ法改正も宙に浮いてしまっていました。
それでも「ビザ免除は可能」
こうした緊張状態ではあるものの、EU駐在のトルコ首席上級外交官であるセリム・イェネル氏は「10月のビザなし渡航実現は可能である」とコメントしていて、またEU側も可能性はあるとしています。イェネル氏はトルコが死刑制度を復活さえせることはないと考えていて、あとは9月にEUの委員がOKを出せば両方の議会で承認されるだろうということです。
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<追記>
トルコとEUの交渉は再開したものの難航し、11月13日にエルドアン大統領はEU加盟の交渉継続をするかどうかの国民投票を行う可能性を示唆しています。EU側が加盟の意志があるのないのかをはっきりさせるべきだと非難。21日には上海協力機構への加盟もあり得ると発表しています。
これに対してEU側は24日に欧州議会で交渉中断を欧州委員会と加盟各国に求める決議を
479対37で賛成が多数となり可決されました。
決議の様子BREAKING: Majority of European Parliament votes to temporarily freeze Turkey's EU accession talks. pic.twitter.com/xezdIRQcag— Turkey Untold (@TurkeyUntold) 2016年11月24日
決議そのものには法的な拘束力は持っておらず、ユルドゥム首相は重要性がないと退けた上で、交渉が中断されれば移民がヨーロッパに再び流入するとコメントしています。
参照
https://www.theguardian.com/world/2016/aug/25/eu-and-turkey-restart-talks-over-migrant-pact
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM04H82_U6A800C1FF1000/
http://jp.reuters.com/article/europe-migrants-turkey-germany-idJPKCN10S05J
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016111300200&g=int
http://jp.reuters.com/article/turkey-security-eu-idJPKBN13J2A1