2016年のスーパーチューズデーが行われた11州のモットーとは?
過激な発言で圧倒的な人気とそれと同じくらいの反発を集める共和党のドナルド・トランプ氏、民主社会主義を自認するバーニー・サンダース氏や中間層重視の政策を掲げるヒラリー・クリントン氏といった民主党の候補者など多くの話題を呼んでいるアメリカ大統領選挙も1つの山場、「スーパーチューズデー」を迎えています。
夏の党大会に向けて行われる予備選挙や党大会が集中する2月あるいは3月の火曜日のことをスーパーチューズデーと言います。
1988年に民主党の予備選が火曜の同日に行われたのを初めにして、現在では大統領候補者選びにおいて重要な位置づけになっています。
今回のスーパーチューズデーの概要はこちらの動画でどうぞ。
今回のスーパーチューズデーの概要はこちらの動画でどうぞ。
そんなスーパーチューズデーですが、今年はアメリカ本土では11州で予備選挙あるいは党大会が行われます(それに加えてアメリカ領サモアの党大会と海外の党員の予備選挙も行われる)。
その11州はこちら。そしてその後にあるのが州の標語です。
- アラバマ州 "We Dare Defend our Rights"
- アーカンソー州 "The People Rule"
- コロラド州 "Nothing Without Providence(deity)"
- ジョージア州 "Wisdom, Justice, and Moderation"
- マサチューセッツ州 "By the sword we seek peace, but peace only under liberty"
- ミネソタ州 "The Star of the North"
- オクラホマ州 "Labor conquires all things"
- テネシー州 "Agriculture and Commerce"
- テキサス州 "Frendship"
- バーモント州 "Freedom and Unity"
- バージニア州 "Thus Always to Tyrants"
私たち日本人にはアメリカの各州がどんな州かピンと来ない面もあります。今年のスーパーチューズデーに当たった11州の標語"States Mottos"などからその州の特徴を見ていきたいと思います。
もちろんそのまま州の性格とは言えないかもしれませんが、ちょっと面白いですよ。それぞれの州の一面が見えてくるのではないでしょうか。
1.アラバマ州
"We Dare Defend our Rights"
「我らは恐れず権利を守る」
アメリカ南部に位置し、州都はモンゴメリー。人口は480万人ほど。現在は製造工業や綿・トウモロコシなどのの作物で発展している州ですが、南北戦争後は深刻な貧困にあえいだ土地でもありました。
"We Dare Defend our Rights"という標語は1939年に公文書管理長官だったマリー・バンクヘッド・オーウェンがこの州の人たちの精神を簡潔かつ力強い言葉で表現できないかと文章を探し、サー・ウィリアム・ジョーンズという人物の"Who constitute a State"という詩のある一節を見つけます。
"Men who their duties know. But know their rights, and knowing, dare maintain(defend)"
「自らの責務が何たるか知る者たち。されども権利が何たるかを知り、恐れず権利を守ることを知る」
2.アーカンソー州
"The People Rule"
「人民による統治」
アメリカ南部の州で、州都はリトルロックです。養鶏や製紙、電子部品が盛んな州で、オザーク山やウォシト山など自然にも恵まれています。人口は約290万人。
1864年に州印に採用されたこの言葉は、出典が不明です。ただ、サミュエル・カルフォーン・ローンという記録管理員がしばしば地域の印章に使われていたこの言葉を標語にしたらどうかと提案したそうです。
3.コロラド州
"Nothing Without Providence(deity)"
「神意によらぬものはなし」
アメリカ中央部のやや西よりにあるのがコロラド州です。州都はデンバー。北から南へとロッキー山脈が伸びる高地の州になっています。人口はおよそ520万人。酪農やスキーなどの観光、鉱物資源などの産業を中心にしています。
"Nothing Without Providence"はコロラド地区の初代長官であるウィリアム・ギルピンの言葉です。もともとラテン語の"Nil Sine Numine"を英語に訳したもので、最後の"numine"を"god"にするか"providence"にするか"deity"にするかといった議論が起きましたが、今は一般的に"providence"が使われています。
"numine"という言葉は神にまつわるあらゆることを指すようです。
4.ジョージア州
"Wisdom, Justice, and Moderation"
「知恵、正義、節度」
東南部に位置するジョージア州の州都はアトランタ(上写真)です。人口はおよそ1000万人。織布や製材などが盛んな州です。アメリカが最初に独立を宣言した13州の内の1つでアトランタも歴史ある町として発展しています。
ジョージア州は正式に州の標語を制定しておらず、"Wisdom, justice, and moderation"は1799年に州の印章に描かれている3つの柱に添えられた文字でした。
もともとこの言葉はプラトンの『国家』に出てきたwisdom, courage(勇気), justice, moderationがオリジナルになっています。消えてしまったcourageは印章の中で兵士の絵で表現されています。
5.マサチューセッツ州
"By the sword we seek peace, but peace only under liberty"
「我らは剣を持ち平和をめざす。されども平和は自由の下にのみあるものなり」
アメリカの北東部にあるマサチューセッツ州の人口はおよそ660万人で州都はボストン。繊維工業や電子製品、出版業、高等教育などの産業が中心となっている都市です。
勇ましい州の標語ですが、それもそのはず。ボストン茶会事件やレキシントン・コンコードの戦いなどボストンはアメリカ独立戦争が繰り広げられた舞台でした。
1775年に州議会で制定されたもので、平和と自由を求めて独立戦争を戦い抜くためのスローガンとして人々の心を1つにしようとしたマサチューセッツの人たちの想いが込められています。
6.ミネソタ州
"The Star of the North"
「北部の星」ミネソタ州の人口は約540万人。首都のセントポールとミシシッピ川をはさんだところにあるミネア・ポリスを合わせてツインシティーズと言います。トウモロコシやダイズといった農業やパルプの生産、鉱物の生産が産業の中心で、最近はハイテク産業も盛んです。
アメリカの冷蔵庫と呼ばれるミネソタ州は寒いときにはマイナス20℃まで気温が下がります。
ちょっと独特な感じがするミネソタ州の標語ですが、アメリカの州で唯一フランス語を起源にしています。
ミネソタの初代長官ヘンリー・ヘイスティングス・シブリーがこの言葉を選んだそうです。ミネソタはフランス人交易商が多かったこともあり、またアメリカで初めて成功したオペラの言葉からシブリーが取ったという説もあります。
7.オクラホマ州
"Labor conquires all things"
「勤労には何事もひれ伏す」アメリカの中部、やや南寄りに位置するのがオクラホマ州。人口はおよそ380万人で、首都はオクラホマシティです。小麦の生産や酪農のほかに、石油や天然ガスの採取を行っています。
"Labor conquires all things"は有名な標語で、古代ローマの詩人ウェルギリウスの『農耕詩』が出典になっています。初代皇帝アウグストゥスがローマ市民に農耕へ立ち返ることを奨励してこの詩も後押ししたという背景があります。
その精神を受け継ぎ、あらゆる職業の人が財産と成功を築くためには一生懸命働くべしというこの言葉が州の標語になっています。
8.テネシー州
"Agriculture and Commerce"
「農業と交易」首都はナッシュビルのテネシー州は内陸部にあり、中央からやや南、やや東といった位地にあります。首都はナッシュビルですが都市の規模としてはメンフィスの方が大きいです。
人口は約650万人で、タバコや綿、畜産などの農業、石炭の生産や発電、バイクの生産、高純度のウラン生成などを産業にしています。
シンプルな標語ですが、1796年に制定されたこの標語は農業や商業活動に情熱を注ぐこの州の人たちの気質を方向づけたのかもしれません。その伝統的な精神は受け継がれ、今では農業や酪農などに限らず製造業やサービス業といった幅広い産業で発展しています。
9.テキサス州
"Frendship"
「友情」メキシコと国境を接するテキサス州の州都はオースティンですが、やはりこの州の都市と言ったらヒューストンでしょう。NASAのジョンソン宇宙センターはヒューストンの南東部にあります。
人口は約2700万人!石油や天然ガスの産出、綿や畜産の農業、銀行業や保険業なども盛んな州です。
他の州の標語と比べると意外な感じがしますが、これは「テキサス」という州の名前とも関係しています。テキサスはこの土地のインディアン、カドー族の言葉"teysha"から来ています。teyshaは「友情」あるいは「提携」という意味があり、人とのつながりを大切にし、手を携えて働き力をつけようという思いが込められています。
10.バーモント州
"Freedom and Unity"
「自由と団結」州都はモントピリアにあるバーモント州はアメリカ合衆国の北東もだいぶ先っぽの方にある州です。州としてはあまり広くないのですが、人口はおよそ625万人。
カナダと国境を接しているだけあってメープルシロップや林業などの産業に特色があり、他にも酪農や観光による収入も大きくなっています。
"Freedom and Unity"というのはやはりアメリカ独立戦争で勝利を勝ち取った人たちの熱い思いが感じられる標語です。
南北戦争でもこのスローガンは用いられ、バーモント連隊の旗と印章には牡鹿の頭の絵とともに"Freedom and Unity"の文字が見られます。
11.バージニア州
"Thus Always to Tyrants"
「暴君はかくなること必至なり」アメリカ東海岸の真ん中あたりにあるのがバージニア州になります。州都はリッチモンド。こちらも独立13州の1つです。リッチモンドは南北戦争時に南部側のアメリカ連合国の首都が置かれたのがリッチモンドでした。
人口は約820万人で、産業はピーナッツ、タバコなどの農業、観光業などのほかにアメリカ海軍の軍港であることが有名です。
これが州の標語なのか、と思ってしまいますが、やはりアメリカ独立戦争の精神を表したものです。自由、正義、独立、団結といった思想が込められています。「暴君」とはイギリスのこと、「かくなる」とは独立戦争で敗北したことを指しています。
暴君という古風な言葉なのはもともとユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)の暗殺に加わったブルータスが放った言葉とされているからです。
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