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オリンピックが南米で開催されるのはこれが初めてで、テレビではなく観戦チケットを取って現地で観戦したいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、すでにオリンピック開催まで半年を切った中で、ブラジル、そしてリオデジャネイロでは解決しなければならない問題も抱えています。オリンピックやワールドカップ開催でよく聞く、会場建設の遅れは今回もあるようですが、ブラジルやリオデジャネイロの事情による以下の3つのポイントについて取り上げたいと思います。
- 揺れるブラジルの政情
- ジカ熱
- リオデジャネイロの治安
混迷するブラジル政府。ルセフ大統領への弾劾も
事の発端はルラ前大統領の汚職の罪で訴追されたことにあります。「貧困の父」と呼ばれたルラ前大統領は、ベネズエラのチャベス前大統領、ウルグアイのムヒカ前大統領、ボリビアのモラレス大統領、エクアドルのコレア大統領そしてアルゼンチンのキルチネール元大統領らに影響を与えた人物で、在任中は国民から絶大な人気を集め、支持率が87%に達したときもありました。
ルラ前大統領 by Ricardo Stuckert/Presidência da República |
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今回のリオデジャネイロオリンピックだけでなく2014年のワールドカップを招致したのがルラ前大統領でした。ところが2014年に発覚したブラジル最大の石油会社ペトロプラスの汚職事件に与党の労働者党を始めとした政治家が2015年に逮捕されるという事態になります。
この事件がさらなる急展開を見せたのが、今月に入ってのルラ前大統領への家宅捜索と事情聴取でした。検察側は一連の汚職事件でもっとも大きな利益を享受したのがルラ前大統領であると睨んでいます。
そして3月16日、ルラ前大統領は突如ルセフ内閣の官房長官に就任します。ルセフ大統領は「入閣はブラジルのため」という声明を出していますが、ブラジルの法律で内閣の閣僚を捜査、起訴するには最高裁の承認が必要なので、これは捜査の妨害であると世論の強い反発が起こっています。支持率は10%前後にまで落ちているとのこと。
またルセフ大統領自身にも2014年の選挙活動中に政府会計を不正に操作した疑惑が持ち上がっていることもあり、ブラジル各地でデモが起こっていて、1月にはリオデジャネイロのデモ隊の一部が暴徒化する事態になりました。
3月18日にブラジル最高裁はルラ前大統領の官房長官任命そのものを無効とし、閣僚としての特権を認めない決定を下していますが、ルラ前大統領はこれに異議を申し立てると思われます。ブラジル議会もルセフ大統領の弾劾の是非を審議する特別委員会を設置して、弾劾の成立には上院と下院の両方で3分の2ずつの議決が必要となります。
連立与党の数の割合から当初はこの弾劾の成立は難しいと見られていましたが、ブラジル民主運動党(PMDB)が連立から離脱する動きがあり、ルセフ大統領の退任の可能性が高まってきました。
その動きに合わせて23日、リオデジャネイロオリンピックの運営を担当するスポーツ相のジョルジ・イルトン氏が大臣の職を辞任することになりました。オリンピック開催に向けて指揮を執っていた人物の辞任は政局の混迷が直接影響してしまう事態になってしまいました。
イルトン氏が所属していた政党が連立を離脱していることから辞任という形になったようですが、イルトン氏自身は連立離脱に反対していてこの政党から離党しています。
世界中から人が集まるオリンピックでジカ熱の世界的な拡大も
蚊が媒介となって伝染する「ジカ熱」。感染すると発熱(38.5℃を超える高熱は比較的稀)、斑状丘疹性発疹、関節痛・関節炎、結膜充血が半数以上の症例に認められ、筋肉痛・頭痛(45%)、後眼窩痛(39%)というものであった。その他にめまい、下痢、腹痛、嘔吐、便秘、食欲不振などをきたす場合もあるとされていますが、さらにまだ確認されていませんが新生児の「小頭症」との因果関係が指摘されています。
中南米の約20ヵ国で流行しているジカ熱はブラジルでも感染が拡大していて、2015年の報告症例は前年比20倍超の約3500件に上り、緊急事態を宣言。ジルマ・ルセフ大統領(68)は先ごろ、蚊の発生源をなくすため、国民に対して「絶対に水をためたままにしてはいけない」と呼び掛けています。
英紙デーリー・メールや豪紙オーストラリアン(いずれも電子版)などによると、ジカ熱は1947年、アフリカ東部ウガンダの「ジカの森」に生息するアカゲザルの感染例が確認され、54年にアフリカ西部ナイジェリアで、ヒトへの初めての感染例が確認されています。
人から人へ直接感染することはなく、感染しても8割ほどは症状がでないまま治ってしまうそうです。2014年に日本でも流行したデング熱に比べて症状は軽く死亡や重篤な状態に陥る可能性は低いが、現在、ワクチンや治療薬、治療方法が確立されていません。
ブラジル政府は保健所と軍の担当者らが2月末までに全ての家庭を訪問して、蚊の発生源の根絶を目指すほか、五輪会場では、毎日必要な検査を実施することを明らかにしています。
世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン事務局長は23日、ブラジルはジカ熱対策に十分な取り組みをしていて、オリンピックが開催される8月には選手も観戦者も安全に過ごせる状況になるだろうと発表していて、「長い道のりになると予想されるが、ルセフ大統領率いる政府の取り組みは立派だ。蚊は難しい相手だが、ブラジルを駆逐することはできない」と言っています。
ただ、WHO(世界保健機関)は、妊娠中の女性に、流行地域への渡航を自粛するよう勧告してます。
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安全なオリンピック観戦旅行を楽しめるか
海外旅行でもっとも心配することが現地の治安ではないでしょうか。リオデジャネイロも観光名所の町ではありますが、犯罪都市というイメージも強くあります。市の人口は約645万人でありながら、2014年に発生した殺人事件は1237件、強盗は7万9262件。人口10万人あたりの発生率にすると殺人でリオ市は日本の約23.1倍、強盗で約510.7倍にもなります。
リオデジャネイロの治安情報について日本総領事館のHPに情報が載っています。2016年に入ってからは2月12日にボダフォゴ地区で銃撃戦、24日にやはりボダフォゴ地区で強盗、3月10日にラルゴドマシャード駅付近で銃撃戦が起きています。
また、リオデジャネイロ州のホセ・マリアーノ・ベルトラメ公安長官は22日、オリンピックのための「反暴力プログラム」の1つが継続できなくなったことを明らかにしました。これはブラジル経済の後退にともない、治安当局の予算が32%削減されたためで、これによりスラム街の麻薬組織壊滅を目的にした特別部隊の編成を断念しました。
先のサッカー・ワールドカップの開催では徹底的な犯罪の取り締まり強化によってリオデジャネイロ市内の治安は一時的によくなったものの、経済不振による失業率の上昇などから犯罪が再び増加傾向にあると言われています。
それでもリオデジャネイロの治安当局は犯罪発生率の高いファベーラ(貧困地区)の一部での平和維持警察部隊(UPP)の活動が行われ、日本を見本にした交番の設置も進んでいます。
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