国民投票の結果、ニュージーランドの国旗は「現行のまま」に。新旧候補の国旗にまつわる話



ニュージーランドの国旗は変わらず


24日にニュージーランドで行われた国旗変更についての国民投票の結果、現状のまま維持されることが決まりました。210万人以上の投票で、現行の国旗に票を投じた人は56.6%、シルバーファーンをあしらった新デザインに票を投じた人は43.1%(BBCより)でした。


2014年9月のニュージーランド議会選挙で与党国民党が勝利し、キー首相が3期目の政権を続けることが決定すると、かねてから主張していた国旗変更の国民投票が閣議決定されました。その後、公募で新デザインを募集し、最終的にウェリントン在住のカイル・ロックウッド氏が考案したデザインに南十字星を加えた下の新国旗候補が選ばれ、現行のものとどちらを選ぶ国民投票を行ったのです。








国旗変更となると21億円以上のお金がかかることや今の国旗に愛着を持っている人も少なくないことから今回の投票結果になったのかもしれません。



どうして国旗変更の国民投票が行われたのか?



そもそも、国旗変更というあまり例のない国民投票が行われたのでしょうか。ニュージーランドが今の国旗になったのは1902年で100年以上が経っています。しかし、国旗変更の議論は何十年も前から持ち上がっていました。


オーストラリアに国旗にひどく似ているという実にわかりやすい理由もその1つでした。



オーストラリアの国旗


これがオーストラリアの国旗ですが、星の数との中の色が赤であること以外は一緒です(星は南十字星を表す)。変更を主張していたキー首相は「国際会議で何度もオーストラリアの国旗の席に座らされた」と言っています。



それよりも変更のもっと大きな意味はオーストラリアの国旗にもデザインされているユニオンジャックにあります。






ニュージーランドの国家元首はイギリス女王エリザベス2世


ニュージーランドは正式名称「ニュージーランド王国」です。共和国ではないんですね。つまりニュージーランドには国王という国家元首がいるのですが、その国王はニュージーランド国内にはいません。イギリスにいるんです。


エリザベス2世

そう、エリザベス2世です。ニュージーランドはもちろん独立国ですが、イギリスと同じエリザベス女王を国家元首としていて実際的な権力はなく、また政治の制度上は「総督(Governor-General of New Zealand)」と呼ばれる人を代理の統治者として指名します。しかしこの総督も権力は持たず、総督が指名する首相が実質的に政治を行っています。


カナダやオーストラリア、ジャマイカ、パプアニューギニアなど、イギリス以外に16ヵ国が同じようにエリザベス女王を国家元首に置いていますが、これこそニュージーランドなどの国旗にイギリスの国旗ユニオンジャックが記されている事実につながります。




ニュージーランドが歴史の教科書に最初に登場するのは、1642年にオランダ人航海士のエイベル・J・タスマンがやってくるところです。もちろんすでにマオリ族は長くこの島を住みかとしてきていました。マオリ族を驚かしてしまったタスマンは攻撃を受けて上陸できずに帰ります。それから100年以上過ぎた1769年、今度はイギリス人の航海士ジェームス・クックが訪れ、今度は上陸します。


その後増え続けるヨーロッパ人とマオリ族との間で激しい戦いが繰り広げられ、1840年にイギリス政府とマオリ族の各部族の酋長たちとのあいだでワイタンギ条約が締結されます。この条約によってニュージーランドは植民地となります。


ニュージーランドは1907年に自治領として認められ、1931年のウェストミンスター憲章によりイギリス自治領が「イギリス連邦の一員」という状態で、他の国と同様に独立が承認されます。第二次世界大戦が終わって2年後の1947年に正式に独立を宣言し、主権を持った国としてスタートしたのでした。



ということで、今もニュージーランドはイギリスの連邦国なのですが、国旗にユニオンジャックがまだあるというのは植民地時代を思わせてよくないのではないかという意見が国旗変更派の主張の大きな根拠になっていたというわけです。





シルバーファーン(銀のシダ)とマオリ族


今回、最終候補になったカイル・ロックウッド氏が考案したデザインの旗をもう一度見てみましょう。




ユニオンジャックの代わりにシダが描かれています。シダというと日本人はワラビのようなものを思い浮かべてしまいますが、この旗に描かれているのは「シルバーファーン(silver fern)」と呼ばれ、ニュージーランドの人にとっては神聖な植物です。




ニュージーランドにはシダが多く生えていて、しかも樹木と同じくらい大きく成長します。特に葉の裏側が銀白色になっていることからシルバーファーンという名がついたこのシダは「tree」と言われるほどになります。



ニュージーランドの象徴的な植物で、有名なラグビーのナショナルチーム「オールブラックス」のユニフォームを始めとしてすべてのスポーツでこのシルバーファーンが施されています。


もともとマオリ語でPongaと呼ばれるシルバーファーンはマオリ族にとって神聖な植物だったのです。葉の裏が銀色であることから、夜道でも道を照らし行くべき道を示すとの意味からマオリの戦士たちにとって「前へ進め」という象徴を表していたのです。



左胸にシルバーファーンをつけたユニフォームを着たオールブラックスが試合前に行う「ハカ」も、マオリの戦士が戦いの前に自らを鼓舞し相手を威嚇するための踊りです。






マオリ族

先住民族というともうごくわずかしかいないように思われますが、マオリ族はニュージーランドの人口の15%を占めています。ただ、マオリ語を話せる人はあまりいないようです。


マオリ族の人たちが最初にニュージーランドに渡ってきたのはタスマンが到着するよりも500年くらい前だと考えられています。現在はさまざまな部族や拡大家族に分かれていますが、全体としてはポリネシア系の言葉や人種、文化を持っています。






アオテアロアとマオリの人たちが呼ぶニュージーランドに本格的に移ってきたのは1300年より後のことだと考えられています。白人の持ち込んだ鉄砲で部族間同士戦ったことや白人の伝染病により人口を減らしていき、現在はニュージーランドの少数民族になっています。








「ハカ」以外にも、鼻と鼻をつけてする挨拶や刺青(タトゥー)をしているのも特徴です。刺青には神や自然、祖先とのつながりを表す意味があるそうです。






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