自動運転化で3万人の雇用創出が見込まれる一方で30万人が失業と英政府が発表
2016年1月19日に世界経済フォーラムが発表した分析報告書によると、人工知能(AI)やロボットの進出で2020年までに世界15の地域・国で510万人の雇用が失われるされています。同報告書では医療、エネルギー、金融の分野の順番でその影響を強く受けることになると指摘しています。2020年というともうすぐそこまで来ていますが、私たちの生活に目を向けてみると身近なものとして直接かかわってくるものの1つが自動車の自動運転化ではないでしょうか。
3月16日にベルリンで開催されたイベントでBMWは、レベル5の車両を2021年までに市場に投入する計画であると公表していて、2030年には自動運転が一般的になると見られています。こうした未来が予測される中、自動車を使った輸送をしている業界はどのようになるのか。海外の自動運転と雇用の関係にクローズアップしたいとおもいます。
安全や便利と引き換えに失うもの
海外では車の自動運転のレベルをSAE(自動車や航空機、宇宙事業などの製品についての標準規格を提案するアメリカの非営利団体)が規定している定義に準拠しています。日本とは少し異なる基準で、レベル5に達すると完全自動運転が実現した状態になります。参考記事:自動運転レベル(0~5)の世界基準とは?SAEの定義を知ろう
レベル5では、
- ハンドル操作と加速/減速
- 走行環境のモニタリング
- 運転操作のバックアップ主体
の3つの運転動作のすべてをあらゆる環境下で人工知能が行う状態です。
アメリカのコンサルティング会社マッキンゼーは、この車の完全自動化によって交通事故は現在より90%減少するという調査報告を発表しています。
世界では毎年125万人が交通事故で死亡していて(2013年WHOより)、完全自動化が実現すればその数を大幅に減らせることでしょう。
失われてしまう人の命を直接的に減らせ、車の運転から人を解放することで多くのストレスやコストも減らすことができるのですから、自動運転化には計り知れないメリットがあります。
その一方で、人の生活を脅かす存在にもなってしまうのはどうしても避けられない事態のようです。アル・ジャジーラの取材によるとイギリス政府は自動運転化によって将来的に3万人の雇用創出が期待されるものの、30万人が仕事を失うと予測をしているようです。
イギリスでは2017年6月に食料品の配送を自動運転で行う実験が実施されています。Oxbotica社が開発をした「CargoPod」は独自に開発された自律走行ソフトウェア「Selenium」を搭載。
車道での自律走行だけでなく配送先のルートや渋滞の迂回もします。
まだ実験段階で人が乗った状態ですが、ゆくゆくは倉庫から玄関先までの輸送を車だけで行うようになるでしょう。そうなると、配送を行う仕事が少しずつ減っていくことになります。
人やモノを車で運ぶ職業もAIに取って代わられるのか?
自動運転化によって失業者が多く出るのではないか。この不安は世界中の輸送、配送の職業にかかわっている人たちが現実のものとして持ち始めています。トラックの自動運転ソフトウェアを手がける中国の企業TuSimpleのチャック・プライス副社長は次のように述べています。「私たちの会社では短期的に車に監督する役目の人を乗せて走行しています。つまり、来月にでも”職を奪う”ような状況が起きたりはしません」
テスラ・モーターズのイーロン・マスク代表も「すぐにそのようなことにはならない」と発言してますが、彼らの言葉は裏を返すといずれは必ず多くの職が自動運転化でなくなると示唆しています。
Tesla's wild concept of a pickup truck will be produced after Model Y, confirms Elon Musk - https://t.co/8ex4jvYKel pic.twitter.com/qFCySYx07P— TESLARATI (@Teslarati) 2017年12月26日
テスラのトラック、モデルYを発表するイーロン・マスク氏
アメリカ合衆国労働省労働統計局の統計によると、アメリカ国内にはトラックの長距離輸送業、配送業、バスやタクシーの交通業など自動車を運転することを主とした職業に就いている人の数は現在380万人います。
もっとも多い長距離輸送業が168万人で、次に日本ではあまり普及していませんがUberやLyftなどの配車サービスのドライバーが100万人となっています。Uberは2016年8月からピッツバーグ市内で自動運転の配車を行っていて、2017年にはVolvo社にXC90を2万4000台発注し2019年から2021年にかけて自動運転車の導入を目指しています。
ラビス・カラニック最高経営責任者(CEO)は「Uberは100万人の人をロボットに入れ替えていく計画を可及的速やかに実現していくつもりだ」としていて、ドライバー100万人の仕事をAIが代わりに行う日が近づいているようです。
また、自動運転化によってライドシェアが普及し個人で車を所有する割合が減少すると考えられ、アメリカの自家用車所有率は2030年までに現在の80%以下になるとシンクタンクRethinkXは報告しています。
個人が車を持たなくなることで、駐車場や高速道路の料金所、ドライブイン、自動車修理工場、自動車パーツ店、モーテル、パーキングメーター、自動車保険、ディーラーなどの関連業種の需要が大幅に下降すると見られています。こうした自動車関連業種でアメリカ国内400万人の職がなくなるとアメリカトラック輸送協会は見通しをしています。
参照
http://www.aljazeera.com/news/2017/12/self-driving-cars-harm-good-171226092437774.html
http://www.digitaljournal.com/news/world/driverless-trucks-coming-to-canada-despite-threat-to-jobs/article/510915
http://www.sfchronicle.com/news/article/Robot-cars-may-kill-jobs-but-will-they-create-12410820.php