イギリスのEU離脱はいつ?リスボン条約と第50条

加盟国のEU離脱について定めたリスボン条約の第50条






2016年6月23日に行われた国民投票によってイギリスはEUから離脱(Brexit、ブレグジット)することが決まりました。創立以来、加盟する国はいくつもあったものの脱退するのは初めてのケース。



先進国のイギリスがEUから離れた世界というのはまだはっきりイメージしにくいですが、その将来に向けて交渉は進んでいます。


しかし、実際にイギリスがEUから離脱する時期はいつになるのでしょうか。それは加盟国が批准している「リスボン条約(EU基本条約)」によって決められます。


今回はリスボン条約にクローズアップ!



EU離脱の日

イギリスがEUを去る日はもう決まっています。それは2019年3月29日の金曜日です。まだ交渉の最中なのにブレグジットの日が決定しているのはなぜかと思うかもしれませんが、これはメイ首相がリスボン条約の第50条を発動したのが2017年3月29日だったためです。







第50条の発動によってイギリスは正式に離脱の通告をEUに対してしたことになり、その時点から2年の間イギリスとEUの双方に交渉の期間が与えられます。



とりあえずは交渉期間の終了日がEU離脱の日と考えられるため、2017年3月29日から2年後の2019年3月29日がブレグジットの日となっています。



しかし、EUに加盟している(イギリスを含む)28ヵ国がすべて合意すれば交渉の延長も可能で、離脱の時期がさらに先になる場合もあります。



フィリップ・ハモンド財務相は交渉の条件をその他の27ヵ国の議会で承認を得なければならないことから、最長で6年かかると発言しています。



ただ、現在、テレーザ・メイ首相が所属している保守党がイギリスの与党ですが、仮に政情が変化し野党第1党である労働党が政権を握ったとしても国民投票のやりなおしは行わないとジェレミー・コービン労働党党首はコメントしていることから、ブレグジット自体が白紙に戻る可能性はほぼないと言っていいでしょう。





リスボン条約とは?

では、イギリス国際社会における歴史的な分水嶺で注目されたリスボン条約とは何なのでしょうか。


リスボン条約は実は通称で、正式には「欧州連合条約および欧州共同体設立条約を修正するリスボン条約」(Treaty of Lisbon amending the Treaty on European Union and the Treaty establishing the European Community, signed at Lisbon, 13 December 2007)という長い名前があります。



2009年12月1日までに当時の加盟国27ヵ国が批准を終え、議長国だったポルトガルの都市リスボン調印、発効されました。



2007年にリスボン条約に署名する当時のゴードン・ブラウン首相





ゴードン・ブラウン首相(左)とデイヴィッド・ミリバンド外務相(右)のリスボン条約へのサイン





そのリスボン条約はどんな内容のものなのかというと、複雑になってしまったEUの組織をシンプルなものにし、合理化を目指した条約でした。



EECの設立を定めた1957年のローマ条約や1993年にEU(欧州連合)の創設を定めたマーストリヒト条約、そしてそれらを修正した2001年のニース条約などEUの法体制はいくつもの条約が重なり複雑なものになっていました。



それらを整備し直し合理化し、民主的で透明性の高い統治を行うヨーロッパの実質的な統合を実現する欧州憲法条約が2004年に欧州理事会で採択されます。欧州憲法条約が発効されるにはすべての加盟国が批准しなければなりません。



ところが翌年5月にフランス、6月にオランダで国民投票が実施された結果、両国は憲法条約への批准を拒否します。大国のフランスとオランダが批准を拒んだことで見送りや延期をする国が相次ぎ、発効は暗礁に乗り上げてしまいました。



事態が動いたのはフランスで憲法条約の簡素化を提唱していたサルコジ氏が大統領に当選した2007年のことでした。理事国だったドイツとポーランドが理事会の決定方式をめぐって対立していたのを仲介し、欧州憲法条約よりも簡素に修正された改正条約の採択合意にこぎつけたのです。



アイルランド、ポーランドなどが国内での調整が遅れて2009年に批准、そして最後のチェコも同年11月3日にクラウス大統領が調印してすべての国が批准。12月1日にリスボン条約が発効したのでした。




リスボン条約によって次のことが決まりました。



  1. 欧州議会の権限拡大(移民、警察・刑事司法協力、通商、農業、知的財産権、自由貿易協定などについての決定)
  2. 議席数を785議席から750議席+議長1人を超えないとする
  3. 常任議長(EU大統領)を設置し、2年半の任期とする(再任は1度可能)
  4. 理事会の決定方式は特定多数決方式が採用されるとともに、「加盟国の55%以上(15ヵ国以上)」と「EU総人口の65%以上」という2つの要件で賛成が可決される二重多数決方式に移行する
  5. 欧州委員長の権限強化(委員の罷免権)
  6. 外務・安全保障政策上級代表の設置
  7. 加盟国議会に割り当てられた票数の3分の1以上が法案の見直しを求めた場合、再検討しなければならない
  8. EU市民100万人の署名でEU立法提案を求める「市民イニシアチブ」が発動する








リスボン条約第50条

では、メイ首相が発動したリスボン条約の第50条とはどのようなものなのでしょうか。


以下、原文を訳しておきます。


1. Any Member State may decide to withdraw from the Union in accordance with its own constitutional requirements.

1.あらゆる加盟国は本憲法の規定に従ってEUから脱退の決定ができる。




2. A Member State which decides to withdraw shall notify the European Council of its intention. In the light of the guidelines provided by the European Council, the Union shall negotiate and conclude an agreement with that State, setting out the arrangements for its withdrawal, taking account of the framework for its future relationship with the Union. That agreement shall be negotiated in accordance with Article 218(3) of the Treaty on the Functioning of the European Union. It shall be concluded on behalf of the Union by the Council, acting by a qualified majority, after obtaining the consent of the European Parliament.

2.脱退を決定した加盟国は欧州理事会にその旨を通告すること。理事会による指針の観点から、EUは当事国と脱退への準備や将来のEUとの関係についての枠組みを考慮した交渉をし、合意に達する。交渉に当たっては欧州連合の機能に関する条約第218条第三項に従うこと。欧州議会の承認を得た後、特定多数決方式によって理事会で可決される。




3. The Treaties shall cease to apply to the State in question from the date of entry into force of the withdrawal agreement or, failing that, two years after the notification referred to in paragraph 2, unless the European Council, in agreement with the Member State concerned, unanimously decides to extend this period.

3.当条約は、欧州理事会が加盟国が全会一致を受けて期限の延長を決定しない限り、脱退の合意が発効された日あるいは合意に失敗した日、2項の交渉が2年経過した日に当該国への適用を停止する。





4. For the purposes of paragraphs 2 and 3, the member of the European Council or of the Council representing the withdrawing Member State shall not participate in the discussions of the European Council or Council or in decisions concerning it.

A qualified majority shall be defined in accordance with Article 238(3)(b) of the Treaty on the Functioning of the European Union.

4.2項と3項の目的のために、欧州理事会または脱退する当該国議会の代表者は欧州理事会、当該国議会あるいはその決定について関与しないこと。
特定多数決方式は欧州連合の機能に関する条約238条第3項bに従う。





5. If a State which has withdrawn from the Union asks to rejoin, its request shall be subject to the procedure referred to in Article 49.

5.脱退後に再加盟を求める国は、第49条の手続きの対象となる。





EU離脱に関する条項なのでさぞかし複雑な内容が書かれているのかと想像してしまいますが、簡素化された条約だけあって5つの項目しかありません。


この第50条に従ってイギリスは離脱に向けた交渉を行っています。







参照
https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07000253/eu_lisbon.pdf
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-40553166
http://www.lisbon-treaty.org/wcm/the-lisbon-treaty/treaty-on-European-union-and-comments/title-6-final-provisions/137-article-50.html



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