北大西洋条約機構(NATO)のサミットがポーランドの首都ワルシャワで8日、9日と開かれました。加盟28ヵ国で主に話し合われたことは次の内容です。
- バルト3国などへの多国籍部隊配置
- アフガニスタンの駐留部隊の規模
- ISとの戦闘を続けているイラクなどへの支援拡大
NATOの多国籍で編成する部隊を4つ、バルト3国などに配置することを決定しました。イェンス・ストルテンベルグ事務総長は、そのいずれに対する攻撃はNATO全体への攻撃であるとみなすとしています。
これは2014年3月のクリミア併合だけではなく東部への軍事行為が見られるウクライナや、軍の撤退を発表したものの内戦が続くシリアなど、軍事力を背景に影響力を広げようとしているロシアへの対抗策として取られたものです。
ただ、軍事抑止力だけによってロシアとの駆け引きを行うつもりではなく、ロシアの孤立を狙うものではないとストルテンベルグ事務総長は続けています。
「また新たな冷戦を生み出そうとは思っていない。新たな軍拡競争や新たな対立が生まれるのも望んでいない」(ストルテンベルグ事務総長)
しかし、バルト3国やウクライナ、ベラルーシといった国をロシアと挟んだ位置にある、ホスト国のポーランドはロシアに対する不信感を隠すことなくその対応を強く主張しました。アメリカのオバマ大統領は今回の決定に従ってポーランドにアメリカ軍1000人を配置することを発表しています。
また、ドイツはリトアニアを、イギリスはエストニアを、カナダはラトビアに兵を派遣することが決まり、フランスはそれぞれにたいする支援部隊を編成することになりました。
NATO加盟国ではないものの、ロシアに東部地域に介入され、反政府勢力を支援されているウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領はNATO首脳陣と首都のキエフで会談し、支援を受ける約束を取りつけました。
ポロシェンコ大統領とストルテンベルグ事務総長は共同記者会見でロシアの画策する東部ウクライナの分離独立を阻止するためにNATOは軍事的、財政的、政治的支援を行うという内容の発表をしています。
不安定な状態が続くアフガニスタン駐留アメリカ軍への支援
アフガニスタンに駐留するNATOの治安部隊の撤退や規模縮小の計画はアメリカのオバマ大統領の要請を受けて延期されることが決まり、規模も現在の35万人の状態を維持されます。治安部隊の配備は2020年まで延期されました。
タリバンやISの勢力がいまだに衰えを見せず、引きつづき国際社会の支援が必要であると判断しての決定でした。
参考記事:タリバン最高指導者ムラー・マンスール師の死亡をアフガニスタン情報局が確認
これまで和平交渉を拒んでいた最高指導者ムラー・マンスール師がアメリカ軍のドローン機による攻撃で死亡し、5月にマウラウィ・ハイバトラ・アクンザダ師が新たに最高指導者の座につきました。アクンザダ師がどのような方針でタリバンを動かそうとしているのかはまだ判明していません。
アフガニスタン政府にタリバンやISと戦える力をつける支援を行う一方で、オバマ大統領はアフガニスタンのアシュラフ・ガーニ大統領に対話の道を模索し続けるよう求めています。
アフガニスタン国防省の報道官ドワルト・ワジリ氏は「過激派に対して武器を置き、平和的な道に加わるよう明確なメッセージを打ち出した。それが通じない場合は国際社会全体で戦う用意がある」と両面での対応を示しています。
アメリカ主導の駐留が始まって15年が経ちますが、アフガニスタン国内でのタリバン勢力は15年前よりも拡大しているのが事実です。アフガニスタン兵士の死者も5500人におよんでいます。
今年で任期が終了するオバマ大統領としては退任後もNATOの後ろ盾を維持してアフガニスタンの支援が行えるようにしておきたかたのでしょう。
アメリカ政府はアフガニスタンに対してこれまで年間34億5000万ドルの支援を行ってきましたが、追加で42億ドルの支援を決定し、NATOもアフガニスタンのアメリカ軍支援のために年間50億ドルの予算を組むと発表しています。
ISへの対策として直接、間接両面でのサポート
NATOはアフガニスタンにも勢力を伸ばし、シリアやイラクでの戦闘も激しくなっているISへの対策に偵察機を派遣する決定をしたとストルテンベルグ事務総長は発表しています。
派遣されるのは航空自衛隊にも配備されている早期警戒管制機(AWACS)と呼ばれる機体で、「テロ対策に活躍するシグナルとなる」と期待を寄せています。ボーイング社が開発した偵察機AWACSは、組織としてはほとんど戦力を保有していないNATOが持っている機体の数少ない例で、高度9000m付近を飛行し、レーダー画像を解析してISの動きをキャッチします。
picture by user:Pajx |
NATOのAWACSは普段ドイツのガイレンキルヒェン基地にあり、操縦はNATO加盟国から選ばれた15人の多国籍パイロットが行います。
シリアで展開する反政府軍やファルージャを陥落させたイラク軍の支援を主導したのはやはりアメリカで、今後もNATOはISとの戦闘を行うアメリカ軍をサポートする態勢を整えていく方針です。
関連記事:イラク軍がISからファルージャを奪還。アバディ首相「次はモスル」
ISと戦う、イラク軍への訓練やチュニジアの特殊部隊への支援も行う予定です。
<追記>
11月18日にNATOのストルテンベルグ事務総長は8日のアメリカ大統領選挙で当選したドナルド・トランプ氏と電話会談をしたことを発表しました。
大統領選挙のキャンペーンでNATOの加盟国が費用負担を怠るような事態があった場合、同盟国の防衛を再考する可能性があると発言していました。
ストルテンベルグ事務総長とトランプ氏の電話会談は「より公平な負担の共有に関し進展を得られてはいるが、まだなすべきことがあるという見解」で両者が一致したとしています。
参考記事
⇒アメリカ大統領となるトランプ氏に海外の首脳はどう反応したのか?
参照
http://www.huffingtonpost.com/markus-ziener/nato-and-russia-the-many-_b_10863938.html
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016070900204&g=pol
http://www.abc.net.au/news/2016-07-09/nato-troops-to-deploy-in-north-east-europe/7582874
http://www.reuters.com/article/us-nato-summit-ukraine-russia-idUSKCN0ZP0L9
http://www.latimes.com/nation/la-fg-nato-afghanistan-russia-20160709-snap-story.html
http://www.bbc.com/japanese/36376130
https://www.rt.com/news/350320-nato-afghanistan-security-military/
http://www.bbc.com/news/world-europe-36755639
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016111900151&g=use
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